Linの気まぐれトーク

映画と小説の日々

水のように

浪花千栄子さんのエッセイ。



図書館の新刊コーナーで偶然見つけた。

朝ドラ『おちょやん』のモデルとなった人の、唯一のエッセイとあっては読まずにいられない。


4歳で母を亡くし、8歳で奉公に出された彼女の幼少期はドラマと変わらず、

驚いたのは、父親のダメさや奉公先での苦労は、事実の方がずっと上を行く、ということ。


「あさイチ」でゲスト出演したトータス松本さんが、そのダメ父の役柄では思った以上の風当たりを受けたようで、満身創痍の演技なのだぁと、気の毒になったり、感心したり。

が、実際の父親はあんなものじゃないようだ。


それ以上に、浪花千栄子さんを奮い立たせたのが夫の裏切りと離婚であったことを知り、複雑な気持ちになる。

もちろん、ドラマは浪花さんの人生とは別物だが、ストーリーとしては『スカーレット』の女性陶芸家に近いのかも知れない。


子供の頃、軟膏の宣伝で「浪花千栄子でございます。」とにこやかに微笑んでいたおばさんに、こんな壮絶な人生があった。

それを知れて、よかった。



閑話休題

韓国映画を数本観ると、必ずと言っていいほど顔を見る俳優、ソン・ガンホ。

ポン・ジュノ監督の『パラサイト』でも、アクの強い父親役で存在感を見せたが、

『殺人の追憶』『グエムル 漢江の怪物』でも主役。

最近観た『弁護人』も。

日本の俳優に例えれば?と聞かれ、

西田敏行と中井貴一を2で割ったような、

と答えたが、今なら役所広司と言うかも。


『タクシー運転手』では、



父子家庭の小市民を。

親子のささやかな幸せを守れればいい、と思う気持ちは誰にでもある。

けれど、ドイツ人ジャーナリストをたまたま乗せて光州へ行ってしまったため、

否応なく光州事件に巻き込まれてしまう。





通訳を買って出た青年も、戒厳軍の攻撃の犠牲になっていく。



実話を元にしているという。

同国人の戦いを、敢えて外国人記者に知らせることで活路を見出そうとしているかのようだ。



この映画で気になったのは、光州事件もさることながら、タクシーが長閑に走っていた時の、運転手とドイツ人ジャーナリストの会話。

「ドイツなら知り合いが行っているよ。何て言うの? 炭鉱?」

するとドイツ人は軽蔑したように、

「炭鉱には韓国人がたくさんいる」と言う。


運転手はサウジアラビアで働いたことを自慢げに言う。

自慢ではないのだが、そんなふうに言わなければやってられない、そんな感じだった。


それで観たのが、



朝鮮戦争で父と妹と生き別れてしまった男の生涯、と言えばそれまでだが、

映画や読書で落涙、 

なんてことは昔話と思っていたが、

気づけば泣いていた。

西ドイツの炭鉱での悲惨な労働、

ベトナムにもアルバイト感覚で行き、いつしか泥沼に。

そういう映画だ。


今度は冷静に観てみたい。