朝ドラの『エール』で、主人公の窪田正孝が学校の廊下に立たされるシーンがあった。
ご丁寧にバケツを両手に持たされて。
これは「立たされる」罰則の中では1番重いもので、教師が彼に手を焼く様が偲ばれるというものだ。
「ばぁばも小学生の時に、廊下に立たされたことがあるよ」と言うと、孫たちは色めき立った。
5年生の時の担任は、スパルタ式の厳しさで有名な大美先生だった。
算数に力を入れていて、2時間でも3時間でも算数の授業ばかりをした。
宿題も半端なく、真面目なわたしは「忘れていく」度胸もなく、半分眠りながら解いていた。
その日は特に多かったせいか、全部出来なかった子がクラスの半数近くいた。
大美先生は、容赦なく彼らを後ろに立たせた。
そして、残った子たちが順に当てられ、答え合わせをしていった。
わたしの番が来た時、なんとその問題だけ飛ばしていることに気づいた。
何と間の悪い、
けれど言い繕う器用さもない。
大美先生のカミナリが落ちた。
「やってないのに、やったフリする人間が1番悪い。廊下に立ってろ」
もう1人、間の悪いKちゃんと一緒に、生まれて初めて廊下に立つことになった。
算数の時間は終わったが、大美先生の授業は終わる様子もなかった。
その教室は音楽室の隣だったため、音楽を終えて教室に戻る隣のクラスの子たちが、私たちを取り囲んだ。
2人とも「廊下に立たされる」常連ではなかったので、
「どうした、どうした」と騒然としたのだ。
大美先生が廊下に出て、我々を取り囲んでいた子どもたちを追い払った。
Kちゃんは、
「なあんだ、中に入れ、と言ってくれるかと思ったのに」とぼやいた。
その後、どんな経緯で戒めを解かれたのかは覚えていない。
大美先生のスパルタは返事の仕方にまで及んだ。
名前を呼ばれて「はい!」と返事しなければ、箒の柄で叩かれた。
クラス全員の名が呼ばれていく。
自分の番が来たら、「はい!」と大きな声で言うのだ。
わたしは緊張のあまり、声が上ずった。
「ヘイ、とは何だ!」
大美先生のカミナリがまた落ちた。
まさか、ヘイなんて言うはずない。
が、大美先生に口答えは許されず、箒の柄でしこたま頭を叩かれた。
笑いを堪えたような先生の顔に似合わず、それは結構痛かった。
「ワタシ、ヘイなんて言ってなかったよね」と、級友に聞いた。
すると誰に聞いても、「ううん、ヘイって言ってたよ」と。
この頃から、自分は緊張すると何をしでかすかわからない、と思うようになった。
そんな体罰が許された時代だった。
大美先生もご存命であれば90代の御隠居だろうか。
今や懐かしい思い出だ。
押し合いへし合いして、春がやって来た。