Linの気まぐれトーク

映画と小説の日々

眠れぬ夜の「深夜便」

出歩かないせいか、夜になっても眠くならない。

かといって、することもないので10時過ぎには就寝する。


無理に眠ろうとは思わない。

夜は灯りを消して、体を横にし、目を瞑るだけでいい。

枕辺に置いたiPhoneで、ラジオを聴く。

眠らなくてもいい贅沢を味わう。

夜は、別の魔物の棲む時間だ。


深夜の3時過ぎに、加山雄三がやって来た。

昔と違い、聞こうと思えばYouTubeで簡単に聴けるのに、ラジオの特集を楽しみにしてしまう。

わたしも古い人間だなあ。

蘇るのは思い出ばかりだ。


加山雄三が若大将シリーズでブレイクしたのは半世紀も前、通学仲間だったクラス一の美少女Tさんが、寝ても覚めても「雄三さん」にぞっこんだったからだ。

当時、加山雄三は30歳、中学生のわたしにとっては「おじさん」で、よりにもよってそんな年寄りを、と冷やかに思った記憶がある。


その「加山雄三」を見直すきっかけになったのが、成瀬巳喜男監督の映画だった。

わたしも還暦に近い歳になっていた。


小津安二郎と違い、成瀬巳喜男の名を知る人は少ない。

芸術家肌の小津と、職人肌の成瀬、と比べられることも多かったという。


「乱れ雲」だったか、司葉子の夫を交通事故で死なせてしまう加山は、若い会社員の役だった。

加害者と被害者の立場を超えて、惹かれ始めるふたりだったが、旅館まで行きながら結ばれることもなく終わる。


その旅館で加山の歌う「南部牛追唄」が、とにかく泣けた。

こんな美しい男だったのか、

今のタレントにはない、キリリと引き締まった男らしさに、わたしはもう驚きっぱなしだった。


今もお元気な加山さん、

もうあの頃の瑞々しさはないけれど、

あの生命力というか、男らしさは誰も真似できない。


この歳になっても発見は多い。

今まで迂闊に生きてきた証拠だろう。



雨の朝


そろそろ新緑の季節