映画『アパートの鍵貸します』
1960年制作の名作。
あ、そういえばまだ観ていなかった、とレンタルショップで気楽に借りてきた。
60年も前のモノクロフィルム、退屈するかなと思ったが、最後まで引っ張られてしまった。
名作と言われるだけのことはある。
舞台はニューヨークの大手保険会社。
主人公のバクスターは、大部屋で働くしがない平社員だが、ある副業をしていた。
アパートを上司の逢引の場所に提供していたのだ。
出世を当てにして貸す方も、安請け合いして借りる上司も同罪だと思うが、
雨の日も、夜更も、自室を提供するしかない、平社員の悲哀が滲み出る場面もある。
ラブホテルや連れ込み旅館のある現代では成り立たない設定で、
60年前ならではの懐かしさに、ついつられて観てしまったが、
よくよく考えれば、女にとっては腹立たしいことこの上ない。
人目を避けるとは言っても、男同士の連帯感というか、情報の共有はちゃんとあり、彼のアパートは浮気仲間の間では公然の秘密になっていた。
浮気も男の甲斐性なのか。
知らぬは女ばかり、
とはいかぬのがこの作品の面白いところで、古さを感じさせないのも、その辺りの心理には今も昔ももないからだろう。
「過去」に葬られた女は面白くないし、調子良く乗り替える男は許せない。
クビになった腹いせに、元上司の奥さんに彼の行状をバラした元秘書の仕返しに、私は思わず快哉を叫んでしまった。
家庭を追われて行き場がなくなれば、軽くあしらっていた浮気相手となんとかなろうとの部長の姿も浅ましい。
ヒロインの恋の相手であったこの部長は、本当に軽率でイヤな役どころだが、主人公のバクスターにしろ、恋の相手のエレベーターガールにしろ、それほど立派な人格というわけではなく、どこにでもいる人たちの恋の駆け引きだろう。
ハッピーエンドっぽくなってはいるが、
不倫上司と別れ、独身男の心情に気付いたところで、彼女が幸せになれるわけでもない。
が、あの時代は「結婚」こそが女の幸せの代名詞だった。
男はセックスするために結婚し、
女は結婚するためにセックスする。
そんな格言?が、まことしやかに囁かれ、
私自身もそう思い込んでいたなあ。
今はもう「結婚」にさほどの意味もなくなってしまった。
結婚せずに好きな相手とセックスだけする方が、よほど合理的だ。
とはいっても、あの頃を古き良き時代と思い出す私もいるわけで、
若い二人のその後に幸あれ、と思わずにはいられない。
やっぱり古いのかなあ。
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