山手線の会話
何というドラマだったか、
草彅剛主演する主人公は経営理念に徹する冷血漢、その彼がさる令嬢と見合いするハメに。
どんなふうに間を持たせようと思案する彼に、ある人が忠告する。
女のお喋りなんて相槌を打っておけばいいのですよ。
山手線の駅名を頭の中で唱える。
四つに一つの割合で相槌を打つ。
なるほど、ごもっとも、その通り
なるほど、ごもっとも、その通り
信じられないことにそれで会話は成立し、見合いはとんとん拍子に進んでしまう。
ずいぶん前に見たドラマなのに忘れられないのは、我が家でも同じ事態が起こっているからだ。同居人T(またの名、夫)は8年前に脳出血を患い、以後軽い失語症。
と言っても舌がもつれるわけではなく、表向き不都合は現れない。
年齢的にもボケるお年頃、あーうーと言葉が出ないのも許される範疇なのか、
対外的には支障なく暮らしている。
が、それでは済まないのは同居人のわたし。
顔を合わせれば黙っているのもきずつない。
下らない話をふれば、向こうも「なるほど、そうだね、ごもっとも」とソツがない。
が、ある時、彼のスリッパがあまりにもペチャペチャとうるさいので、
「ねえ、そのスリッパ、どうしてペチャペチャいうの?」
と聞いてしまった。
返事は「なるほど」だった。
山手線の何番目の駅だったのだろう。
それでも日々つつがなく生活は続く。
山手線の会話も続く。
雪柳が花盛りだ。
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